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「今度デートしてください」

 そう申し込むのは会社の後輩の佐久早君だ。彼は直接業務に関わることは殆どないが、会社での過ごし方などは私が教えている。その結果、何故か懐かれてしまったというわけだ。

 別にプレイボーイだと思っていたわけではない(どちらかと言うと、宮君の方がそれに当たるだろう)。だからと言って、ここまでストレートに来ると潔いものを感じる。放置しても彼の態度は変わらないとわかっているので、私は素直に頷いてやる。佐久早君とデートをすることに対し、私はやぶさかでもない気持ちだ。とはいえ、それは場所によるのである。

「じゃあ近くのいい店探しておきます」

 彼の言い方は、まるで会社員が飲みをするような気軽さだった。私も彼も同じ会社員に違いはないのだが、佐久早君はパパラッチに追われる立場である。彼はあまり変装をする方ではないし、変装をしたとしても見抜かれてしまうかもしれない。非難めいた視線を向けると、佐久早君は前を見据えて目を細めた。

「名前さんに下心があると思われるより撮られた方がマシです」

 その表情は苦々しげだ。確かに、佐久早君の家で飲みましょうと言われてもそれはそれで抵抗がある。まあ、佐久早君と間違いが起きてしまうことと全国ニュースに載ることを天秤にかけたら、ややスキャンダルの方が嫌だが。

「撮られたら私が困るんだけど」
「事実になるよう努力します」

 佐久早君は平然としている。事実であれば、熱愛報道が出てもいいと思っているのだろうか。彼はファンに嘘をつかない。それをわかってか、佐久早君のファンはコアな人が多い。交際宣言をしたらどうなるのだろう。そう考えたところで、私は自分が浮かれていることに気付いた。