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 オンボロ寮にエースとデュースが遊びに来ていたところに、エースの当番サボりを咎めにリドル先輩がやってきた。ついでにデュースまで怒られ、二人は慌ててハーツラビュル寮へと帰った。残されたリドル先輩がやけに疲れているようだったので、私は紅茶を勧めた。素直に頷いたリドル先輩に対し、グリムが紅茶をこぼした。シャツにもろにかかってしまったリドル先輩は、そういうわけで私の予備のシャツに着替えているのである。

 部屋には奇妙な沈黙がおりていた。まず、私のシャツがリドル先輩にぴったりだということが少し気まずい。それから、私達の目の前で着替えるとは思わなかったのである。男らしいといえばそうだけど、なんとなく見てはいけないもののような気がする。それはリドル先輩にも伝わってしまったのか、リドル先輩はゆっくりと振り向いた。

「何故ボクの着替えから目を逸らすんだい?」

 ぎくり、と私の体が揺れる。正面きって見ていても気まずいだけだろう。でも、今の私はあからさまにリドル先輩を見ないようにしている。

「まさか……ボクが女の子だと思っているんじゃないだろうね」

 リドル先輩のまとう空気が、段々暗いものになっていく。私はエースが怒られていた時のことを思い出した。今、リドル先輩がまとっている空気は限りなく当時のそれに近い。

「名前! 見るんだ、ボクの着替えを!」

 見ろと言うのもどうなのか、と思いながら私は渋々視線を上げる。リドル先輩の真っ白な肌だとか、柔らかそうな質感が目に見えて、私は今すぐにでもそらしたくなる。私が自分の気持ちを隠してリドル先輩の着替えを見ていることはずるいのではないか。少なくとも、フェアではない。

「私がリドル先輩の着替えを見れなかったのは、先輩を好きだからなんです……」

 私は目を手で覆って行った。リドル先輩を女の子だと思っているからの緊張ではない。好きな人の着替えを見るという、ただそれだけの緊張なのだ。

「それを早く言わないか」

 リドル先輩は少し反抗的な声を出した。私はこのままフラれてしまうのだろうか。指の隙間からリドル先輩を見ると、彼はやや照れたような表情をしていた。

「出てお行き。異性相手に肌を見られたくないよ」

 少なくとも私を、異性として見てくれているようだ。私は消え入りそうな声で返事をして部屋を出た。これから、どんな顔でリドル先輩と会えばいいのだろう。