▼ ▲ ▼

 毎日学食のお世話になっている私の昼食がミニマム化したのは、決して懐事情によるものではない。あまり食べる女はモテない、つまり「小食な女子の方がモテる」と聞いたからだ。ありがちな言論だが、確かにどんぶりにがっついている女子より清楚に食事をしている女子の方がおしとやかな気がする。そういうわけで、私は学食の半ラーメン一つで我慢している。

「なるほど」

 私の話を聞いて、牛島君は神妙に頷いた。私には女子の友達がある。学食で男子と二人きりで食べているなど噂の標的になってしまいそうだが、相手が強者であれば噂好きの女子も逃げて行くのである。弁当派の友達と、女子とランチをすることに抵抗のない牛島君に囲まれて、私の昼休みは平和だ。牛島君は体格に見合った量のスープを口へ飲み込んだ。

「だが、栄養をなくしては元も子もないんじゃないか」

 牛島君の言葉にどきりとする。健康的。それは人類が抗えないファクターだ。

「元気な奴の方が好きだという人間もいるだろう」

 善は急げ。私はすぐさまおかわりを求めに行こうとした。実際に立ち上がりかけたのだが、牛島君の一言によって私の体は止まる。

「まあ、これは俺の持論だが」

 要するに、「元気な人の方がいい」というのは牛島君本人の好みなのだろう。ここで私が元気よく炒飯を追加しようものなら、私の方から「牛島君の好みに合わせます」と言っているようなものなのだ。それはつまり、告白をしているに近い。

 途端に目が回りそうになる私の元へ、牛島君が声をかけた。

「どうした。追加で頼まないのか」

 今自分も巻き込まれようかという事態の内側にいて、どうして呑気にいられるのだろう。私は一種の苛立ちすら感じる。一応、私は牛島君のせいでここまで混乱してしまっているのだけど。不躾な視線をやると、牛島君は小さく笑った。

「まあ、苗字なら元気じゃなくてもいいだろうが」

 それは、特別扱いだろうか。それとも私を買ってくれているのだろうか。とりあえずその場にいることができなくなって、私は冷水器の元へと歩いた。こんなことを言っておいて、牛島君はまた平気な顔をして私と学食を食べるのだろう。なんだか、すごくもどかしい。