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 傑が謀反を起こした時、硝子から聞いた場所に傑はいた。悟はまだ来られないようだった。まるで私と悟との位置関係を知っていて、最後に会う時間を作ったかのようだった。

 私は息を切らして傑を見る。何と言えばいいのだろう。いや、言う言葉など決まっている。でもそれはあまりに陳腐に感じられた。結局、私はその言葉を声にした。

「行かないで」

 傑は形式ばかり笑った。まるでそれを言われるのを待っていたように。

「じゃあ君が悟と別れて私のものになるならいいよ」

 私の体に電流が走る。傑が私を好きなことは知っていた。でも、直接何かを要求することはなかった。そんな傑に私は甘えていた。そのツケが、今来ている。何も言わない私を見て、傑は自嘲気味の笑みをこぼした。

「できないだろう? 私も同じくらいの覚悟だ」

 私が悟と付き合っているのと同じくらい真剣に、傑は謀反しようとしている。そう言われてしまえば何もできない。傑は今まで何もしてこなかったお返しだと言うように、私に近付いた。

「人の彼女をやりながら、軽はずみに犯罪者に近付いてはいけないよ」

 傑に何かされてしまう。でも私は避けることができなかった。今まで傑の気持ちを知っていて知らないふりをしていた私は、それを受けるべきではないのかと思ったのだ。傑はそんな私を見て小さく笑うと、私に手をかけた。最後の瞬間は、隠しきれない優しい顔をしていた。

「傑は逃した」

 次に目を覚ました時、私は高専にいた。隣に悟がいたので悟が連れ出してくれたのだろう。悟が到着した時、私は地面に倒れていたという。私は傑に犯されたのか、攻撃を受けたのか、わかりやしない。「でも多分何もされてないよ」と悟が言った。それが外傷からではなく、傑を信用した判断だとはわかっていた。私も同じ気持ちだった。結局、傑は優しいのだ。優しくなければ謀反などしないだろう。私は一度起こした体を横たえ、もう一度天井を見上げた。