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 二人でいる時に、週刊誌の突撃取材を受けた。MSBYブラックジャッカルの佐久早選手ですか? と。佐久早は素直に頷いた。記者が聞きたがっていることは明らかだった。幸い、私達は店を出たばかりで手を繋いでいなかった。誤魔化せ、と佐久早に視線を送る。佐久早は普段通りの無表情で静かに答えた。

「姉貴です」

 結局、佐久早の記事が世に出ることはなかった。あの写真は今もどこかのカメラマンが持っているのだろう。しかし噂というものは早いもので、業界人の中では「佐久早が姉を連れて歩いていた」という話はすぐに広まった。それを聞きつけたスポンサーや関係者が、パーティに姉ごと佐久早を呼んだのだ。当然、佐久早の姉として私が行かなければならない。たとえもう佐久早との付き合いが終わっていようと。

 新しい男を探しに行く気にもなれず、私は会場の隅で佐久早と飲み物を飲んでいた。姉弟ならおかしくない。元恋人なら、少しおかしい。

 佐久早はパーティで平然としていた。まるで私が隣にいるのが当然だと言うように。もしかして佐久早は撮られた日から、私を離さないために嘘をついたのだろうか。

「これ狙ってた?」

 私が小さく聞くと、佐久早は片手をスーツのポケットに入れたまま答えた。

「さあな」

 はぐらかす気だ。そのまま沈黙が訪れる。別に帰ってもいいのに帰らないのは、私も少しは佐久早に未練があるからなのかもしれない。

「俺が狙ってたのは、誠実だって思われることだけだ。姉は一人って公表してるからな」

 他の女と撮られた時、もう姉という言い訳は使えない。別れた時困るだろうに、佐久早は一生に一度の言い訳を使ったのだ。なんとなく、胸の奥がむずがゆくなってくる。

「本物のお姉さんと歩く時どうするのよ」
「さあな。元いた姉を嫁にするかもな」

 佐久早は何でもないようにまたグラスに口をつけた。相変わらず、私のことを好きなのか好きでないのかわからない態度だ。でもそういう密やかさの中に熱を隠している人だと私は知っている。手を伸ばせば届く距離が少しもどかしい。