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 梅雨は終わりだ。夏時の雨というのは、大抵は予測できる。昼間温められた空気が上昇し、夕立を生むことなど頻繁にある。だからこそ私は、凛が傘を持ってきていると確信した。

「傘忘れちゃった」

 できるだけ可愛らしく、自然に。私は凛を見上げた。凛は傘を持っているはずだから、ここで一緒に入るかと言われれば私達はハッピーエンドである。付き合う付き合わないではなく、この日一日の思い出は綺麗なものとして語られるだろう。しかし、凛も少し火照った頬で答えた。

「俺も持ってねぇ」

 私を見下ろす顔は少し動揺している。まさか、凛も同じことを考えていたのか。私達の最近の距離感を考慮すれば、おかしな話ではない。だがこんなことでミラクルを起こしても仕方ない。スポーツマンである凛が雨に濡れるのは一大事だ。

「だから何で俺のに入るんだよ」

 結局、同じスポーツ施設に用があった冴の傘に入ることになった。冴は用意周到だからきちんと傘を持ってきている。一人用の傘の中で、私達は窮屈に肩を寄せ合った。冴はその様子を見て、呆れたように息を吐いた。

「俺はコンビニで買うからお前ら相合傘しろ」

 恐らく、何故私達が二人とも傘を持っていないかという理由に気が付いたのだろう。弟のことには興味がないといった風の冴だが、お膳立てする気はあるようだ。しかし、冴を雨の中コンビニまで走らせるわけにはいかない。

「日本の至宝が風邪ひいたら大変だよ! 私が傘買ってくるから」

 傘を出ようとすると、冴から手を強く掴まれる。

「男二人で相合傘させる気か」
「名前はここにいろ」

 どうやら兄弟二人で相合傘をするというのは二人にとってとても嫌なことらしい。私がいた方が狭いのではないかと思うが、女子が一人いることで変わることもあるのだろう。

 再び狭くなった傘の中で、冴が悪態をついた。

「ったく、イチャつくなら計画的にやれ」
「イチャついてなんかない!」

 私はすぐさま答えたが、冴は「どうだか」と信じていない様子だ。証明したくても、凛と二人きりになったら私はまた高揚してしまう。冴には勝てないものだと、私は今更ながらに実感した。