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 球技大会とは、学生生活の中でも大きなイベントである。私は勝利を収めるため、バレーを選んで古森に教わった。言わずもがな古森はバレーの第一人者で、教えることにも快く頷いてくれた。リベロだというのにレシーブ以外のことも上手いのだと驚いていると、昔はポジションが違うのだと教えてくれた。私はまた一つ、古森を知った気になった。

 球技大会当日、女子のバレー前。私は勇んだ足でコートに入ろうとした。応援に来ていた古森が、前を向いたまま口を開く。

「勉強でもスポーツでも、教えてもらったことをどう活かして自主練するかが大事なわけじゃん? だから数回俺に教わったところで大して上手くなってないと思うよ」

 私は目を見開いた。まさか古森が、ネガティブなことを言うとは思わなかったのだ。少なくとも試合前に気持ちをへし折るタイプには見えなかった。驚く私に、古森は笑いかける。

「苗字は俺に教えてもらうより俺に試合見られた方が頑張れるタイプだろ。俺はちゃんと見てるよ」

 つまり、古森が言いたかったのは見ているということだ。練習をしたことよりも、古森に見られた方が私は頑張れると思ったのだろう。これは私の気持ちもバレていそうだな、と思った。

「何で無意味な練習に付き合ったの?」

 今感じている緊張は試合に対してか、古森に対してか。古森は感じのいい笑みを浮かべると、私の背を押した。

「それは試合が終わったら教えてあげる」

 私の足がコートに入る。喧騒に負けそうになる中、古森が大きな声を出した。

「頑張れ!」

 見られた方が上手く行く、とは経験則か何かだろうか。私は今、誰にも負ける気がしない。