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「お前はそうやって好き好き言ってくるけど、好きじゃなくなった時も俺に言うのか」

 言ってから、これではまるで好きでいてほしいと言っているみたいだと気付いた。でももう元に戻すことなどできず、俺は気まずさを携えたまま苗字の前に立つ。苗字は俺の緊張など知らないような顔で、「何で嫌そうな顔するの?」と尋ねた。

「お前が勝手に好きになったくせに俺を振り回すな」

 俺の言葉は、苗字の質問の回答になっていない。ただ一方的に俺が言いたいことを言っているだけだ。俺は結構苗字に甘えているのかもしれない。尻尾を振っているのは、苗字ではなく俺の方なのだ。

 苗字は珍しく真面目な顔をして、視線をどこか遠くへ投げた。俺の本心には突っ込まない、そういう所が俺をどんどん甘やかす。好きだとまとわりつかれている時は鬱陶しいのに、この距離感は心地いいと思ってしまう。

「言わないと思うよ。多分佐久早と関わり続ける間は好きでいるから」

 苗字は俺の最初の質問に答えた。関わり続ける間、つまり学校が離れない間ということだろう。

「好きなら無理してでも俺と関わり続けようとしろよ」

 ああ、また甘えている。俺は勢いに任せてそんなことを言った。苗字は悪戯に笑って俺を見上げる。

「毎日佐久早の大学行くかもよ?」
「別にいい」
「そしたら付き合ってくれる?」

 関われと言うからには、責任をとらないといけない。とってもいいと思っている。でも苗字相手にそのことを言うのは、俺の中の何か――プライドや照れのようなものが邪魔をした。

「ちゃんと告白してくれたら答える」

 こう言えば冗談のように告白してくる苗字は困るとわかっていた。案の定苗字は「そっかぁ」と笑っていた。苗字はちゃんと告白しろと迫らない俺に甘えている。俺も苗字に甘えている。この関係は、いつまで続くのだろう。