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※バッドエンド

 部屋を出たら、廊下に傑がいた。寮に入ったはずの傑が私の家にいることも、仁王立ちする傑の表情も、何もかもおかしかった。傑が地元に帰ってくるなど聞いていない。私はできるだけ傑を刺激しないように、努めて穏やかな声を出した。

「どうしてここにいるの?」
「これから私の親を殺す」

 質問に答えていない、と思った。傑はおかしくなっている。それはわかるのに、私の手で正常に戻すことはできないと思ってしまう。傑と離れていた期間が長すぎる。傑がどうして「こう」なってしまったのか、私にはわからない。

「殺さなきゃいけないんだ。他の大勢の人間も。だからその覚悟を決めに来たんだよ」

 傑は今になって質問に答えた。私は傑がこれから犯罪者になるのだと予感した。傑になら大犯罪者になれる。それだけの力があった。傑はぎらついた目で私を見据えた。

「名前、君はもうこの世で誰よりも大事なんだ」

 私の口端から、感動とも諦念ともつかない笑みがこぼれる。だから傑は真っ先に、私を殺しに来たのだ。大事だという言葉は、できれば別の場面で聞きたかった。傑は私を喜ばせようとして言ったのではなく、私を殺す理由として言ったのだろう。

 傑の手が私の首に伸びる。傑の得意な呪術では殺さないのだと思った。狭まる視界の中で傑を見る。傑は自分が首を絞められているかのような、辛そうな顔をしていた。