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普段、無料で配っているティッシュの類は受け取らない。その商品を買うわけではないのに貰うのは筋が合わないと思うからだ。そんな俺も、駅前で足を止めた。
「よろしくお願いします!」
ティッシュ配りをしているのは、去年クラスが同じだった苗字だったのだ。俺はひとまず差し出された一つを受け取り、それからその場を往復して何度も貰った。苗字が持っているティッシュがなくなるまで、何度も。今の俺はティッシュ欲しさにその場を彷徨く貧乏人のように見えているだろう。でも、別にそれでいいのだ。
「これで終わりか?」
俺がその場を往復して五分程経った時、苗字はついにティッシュを差し出さなくなった。後半は全て俺が貰っていたから、俺のポケットははちきれそうなほどに膨れている。
「佐久早くんって意外と貧乏性なんだね」
苗字は何も知らないで笑ってみせる。
「たまたまだ」
俺はティッシュをポケットからバッグの中に移し替え、苗字の元を去ろうとする。そんな俺を苗字が止めた。
「ノルマ全部持って行ってくれたお礼にこれあげる!」
手のひらに小さく佇むのは、なんてことない飴だ。しかもこの暑さで中身は溶けていることが予想される。それでも、俺にとってはシャーベットよりも嬉しい代物だった。
「ありがとう。ティッシュより嬉しい」
俺が飴を持ち上げてみせると、苗字は驚いた顔をした。
「あんなに持って行ってたのに!?」
別に俺はティッシュが好きで貰っていたのではない。なんて、言うつもりはない。
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