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 他の大勢と同じように私は酔うとはめを外すタイプであり、悲しいながらその記憶も待ち合わせているタイプだった。先日の飲み会の終わり、佐久早と歩いている時に、私は路上でねだったのだ。

「おやすみのちゅ〜!」
「ん」

 佐久早は本当にしてくれた。それが私を宥めるためなのか、本当に私のことが好きなのかはわからない。そもそも、好きなら送り狼をするべきではないだろうか。私は一人で家の鍵を開け、ベッドに横になった記憶がある。佐久早はきちんと私を家まで送り届け、律儀に帰って行ったのだ。あのキスは酔っ払いを大人しくさせる、言わばおしゃぶりのようなものだったのだろう。

「佐久早って私のこと何歳だと思ってる?」

 次に会った時、私は佐久早に聞いた。佐久早はやや迷惑そうな顔をしたが、この間キスをしたことに関する照れのようなものはなかった。

「お前まだそんなこと聞く年齢じゃねぇだろ」

 残念ながら私の質問は女性にありがちな「何歳に見える?」というものではない。この間のキスの意味を聞いているのだ。

「子供だと思われてるのかと」

 佐久早はそこで合点がいったような顔をした。この間のことだと気付いたのだろう。

「本当に好きだからキスだけにしたんだろ」

 佐久早はそう言って歩き始めた。私はその周りをまとわりつく。

「さらっとそういうこと言っちゃう!? 今の告白だよね!」
「うぜえ」

 格好いい台詞を簡単に口にしてしまう佐久早は面白かった。付き合って、とすぐ続かないのがもう私たちは学生ではないのだと感じさせる。佐久早にとって、付き合うかどうかという話はオフィスの片隅でするようなことではないのかもしれない。

 俗物に染まりきらない佐久早の真っ直ぐなところを私は好きだと思った。見方を変えればそれは佐久早を好きになった、と言えるのかもしれなかった。