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 放課後の教室には体育館の空きを待つ生徒だけが残っていた。昼神と私だ。沈黙が特に気まずいわけでもなく、各々好きにしていた。だが突然昼神が着替えをし出したのには驚かされた。体育館が空いてから着替える時間が勿体無いということなのだろうが、私は異性だ。昼神は私に気付いたように振り返る。

「ああ、ごめんね。名前ちゃんから貰ったぬいぐるみの前で着替えたり寝たりしてるから、全然抵抗ないんだ」

 私は昼神にあげたぬいぐるみのことを思い出していた。「私だと思ってね」と冗談で言ったことを覚えている。そんなに気に入ってもらえたのか。嬉しいのに、少し落ち着かない思いがある。

「名前ちゃんが言った通り、本当にぬいぐるみのこと名前ちゃんだと思ってるから」

 昼神は笑った。昼神は私の前で着替え、私と寝ているのだ。文字に起こすと恥ずかしい話だが、昼神の言う通りならそうだろう。

「じゃあ私と着替えたり寝たりできるってこと?」

 思いつきで言ってから後悔した。私達は付き合っていない、クラスメイトの異性というある程度距離のある関係だ。この質問は、その距離を縮めたがっているように聞こえる。

「俺の方はね。名前ちゃんはどう?」

 しかし昼神は照れすらなく、悠然と笑うのみだった。私が当然ついていけるはずもない。

「……ぬいぐるみから慣れさせてください」

 その場しのぎで言うと、「今度ぬいぐるみあげるね」と昼神は言っていた。別に、ぬいぐるみが欲しかったわけではない。