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 夏油さんは離反する時、高専で御三家に虐げられていた私を拾った。特別仲が良いというわけではなかった。ただその場にいたから連れてきた、という雰囲気だ。夏油さんと私しか入れない一室で、私は隣に座る夏油さんを見やる。

「どうして私を選んでくれたんですか?」

 私も高専に不満があったわけではない。夏油さんに連れられなければ、今も呪術師として活動していただろう。夏油さんは視線を前に向けたまま、悠々と答えた。

「幸せにしなくていいから」

 その言い方は、ビジネスのパートナーではなくプライベートのパートナーのようだった。夏油さんは私を恋人として扱っているのではないかと時折思うことがあった。まさに夏油さんのこういった場面だった。

「付き合うならどうしたって幸せにさせたくなるだろう。そういうのは面倒なんだ。君はどう足掻いても幸せになる未来がないから、私は楽だよ。諦められて」

 夏油さんは愛が重いのかそうでないのかどちらなのだろう。そもそも付き合う話などしたことないが、あの日夏油さんの手を取った時点で一蓮托生なのかもしれない。夏油さんは私を見下している。幸せになれないと思っている。そしてそれは事実である。「守らなければ」と思った時点で、夏油さんはその誰かを見下しているのだ。

「夏油さんって私のこと好きなんですか?」

 不意に尋ねると、夏油さんは胡散臭い笑顔を浮かべた。

「愛しているよ」

 嘘の方がまだ面倒ではないな、と思った。