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 夏休みの部活帰りは佐久早と一緒になることが多い。普段は遅くまで残っている強豪のバレー部も、休日練習となれば他の部活と同じ時間帯に終わるのだ。なんとなく同じ電車に乗って、なんとなく一緒に帰る。隣を歩くことに躊躇いがないのは、佐久早と去年同じクラスだったからだろう。早とちりをして噂を広めるような生徒も、この近辺にはいない。

「日傘」

 夕方とはいえ灼熱の中、佐久早はぽつりと呟いた。私達は一緒に帰っているくせにあまり会話がなかった。多分佐久早もそれを居心地いいと思っていたのではないだろうか。

「何? ブスは日傘さすなってやつ?」
「そうは言ってないだろ」
「じゃあ何よ」

 佐久早はどこか不満げだ。室内競技だから佐久早も日焼けはしていないが、気になるのだろうか。剥き出しの佐久早の腕や首を見る。

「お前が日傘さすと傘が俺に当たる」

 佐久早が言いたいのは、物理的な迷惑の話のようだ。私は佐久早が一九〇近くあることを思い出した。佐久早は地味にハイスペックだ。部活でも一応エースらしいし。

「じゃあ隣を歩かなければいいんじゃない?」
「どこ歩くんだよ」

 佐久早はつっけんどんな声を出した。佐久早ならば「お前もう俺のそばを歩くな」くらい言うと思っていたので、少し意外だ。

「そもそも一緒に帰らなければいいじゃん」

 私達は一緒に帰る約束などしていない。佐久早が日傘を嫌だと言うならば、佐久早がタイミングをずらせばいいのだ。そうしたら私は堂々と日傘をさして歩けるだろう。佐久早が文句を言っているのだから、私がわざわざ佐久早が帰るのを待つ義理はない。

 佐久早は少し考え込んだ後、やはり私と同じペースで私の横を歩いた。佐久早の腕には、私の日傘があたっている。

「やっぱり日傘さしてていい。その代わり俺も傘に入れろ」

 私は少し驚いた。私達は異性であるからだ。それに、佐久早が女子と積極的に関わろうとすることが意外だった。

「相合傘させてってよく異性に頼めるね」
「今更なんだよ」

 そうしている間にも佐久早は日傘の中へ入ろうとしてくる。私は慌てて傘を持つ手を上げた。佐久早がそれを受け取り、私達は花柄の小さな日傘の中に収まった。直射日光は防げているはずなのに、近くに生きた人間がいる熱気で暑かった。