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レイジさんは都合のいい足ではない。捕虜と私の二人、それも玉狛に誰もいない時となれば、歩いて本部に向かうことが普通なのだ。たとえ炎天下であっても。

 突き刺すような日差しの中一歩踏み出すと、唐突にヒュースが立ち止まった。振り返れば、黒い傘を広げている。

「日傘!?」

 ヒュースが、日傘。まだ天気を間違えたと言われた方が納得できる。しかしヒュースは平然と、それが正しいのだと言うように日光の中を歩き出した。

「相合傘というのがあるんだろう。雨の日に片方しか傘を持っていない状況にするよりもオレが日傘を持った方が早い」

 一体ヒュースに相合傘を教え込んだのはどこの誰なのだろう。目的を見据えたらそれに向かって最短距離を目指すところはヒュースらしい。確かに、雨の日に私かヒュースかのどちらかだけ傘を持っている状況を再現するのは珍しい。

「目的ダダ漏れなんだけどそれ言っちゃって大丈夫?」

 ヒュースは私への好意を隠す気がない。玉狛の中でももはや誰もからかわず、「そうだよね」程度に思われている気持ちに、私は改めて向き直る。ヒュースは黒い影の中で涼しそうな顔をしていた。

「これから口説くから問題ない」

 などと言われると余計に緊張するからやめてほしい。私は大人しくヒュースの日傘に入れてもらった。歩くと時折肩がぶつかる。その形のたくましさに、ヒュースも男の子なのだと思い知る。

 ここまで全部ヒュースの思い通りなのだろうか。私はまんまとヒュースを男の子として意識している。言葉などなくても。

 これから口説くと言っていたくせにサボるな、と文句を垂れたくなる。でも口説かれたところで私は受け流すしかないので、これでいいのだろう。早く本部に着いて、冷房を浴びたい。