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 玲王くんにお祭りに誘われた時、私はどきりとした。恋愛のときめきだけではない。御曹司の玲王くんならば、私のために祭りを買収してしまうようなこともあるかもしれないと思ったのだ。しかしそれは杞憂だったようで、玲王くんは私の隣に大人しくおさまっている。

「混んでるな〜。まあ来たかいがあるか」

 玲王くんが人混みにいるのはなんだか変な感じだ。玲王くんがいるなら、人混みは人混みでも表参道などのお洒落な街がに似合いそうだ。こんな、安物の屋台が並んでいる通りではなく。

 玲王くんは繋いだ手を上げ、太陽のように笑った。

「はぐれないように手繋げるからな」

 玲王くんの笑顔に他意はなさそうだ。私の頭が咄嗟に結論を導き出す。玲王くんは、手を繋ぐためだけに祭りに誘ったのではないか。

「そのためにわざわざ人混みに?」

 玲王くんなら高層ビルで優雅に食事しているのが似合う。私のためだけに、庶民の感覚を味わおうとしているのか。急に申し訳なくなって、私は下を向く。

「私玲王くんが言ったら手くらい繋ぐよ」

 何も、祭りまで来なくても。いや、祭りに来たのは十分楽しいことだから、これはこれでいいのだが。祭りに誘われて了承するというのは少なからず好意があるということだし、私は今玲王くんといることを楽しんでいる。

 玲王くんは祭りに来たことを後悔するでもなく、口角を上げた。

「結構俺のこと好きじゃん」

 わかっているなら、普通に手を繋ごうとでも言えばいいのに。まるでこのやりとりすら楽しんでいるような玲王くんに、私は何も言えなくなった。