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 初めてのアルバイトをコンビニの店員にしたのは、駅から近いというそれだけの理由だった。周囲からは哀れまれたりもするけれど、人生経験として悪くないと思っている。コンビニには実に様々な人が来る。仕事終わりにビールを買う人、慌てて充電器を買いに来る大学生、立ち読みだけしに来る人。今日来たのは、毎週末にパンツと使い切りスキンケアを買って行く女の人だった。下着もスキンケア用品も彼氏の家に置いておけばいいのに、と思うがそれは余計なお世話だ。そうできない理由があるのだろう。

 数時間の仕事をこなして、裏口から出る。今頃あの女の人は彼氏とお楽しみ中だろうな、と思った。コンビニで働くと様々な人の人生を勝手に想像してしまうのが難点だ。帰ろうとした時、コンビニの前で蹲る影を見つける。そっと様子を窺うと、それは例の女の人だった。

「大丈夫ですか?」

 俺は声をかける。彼女は顔を上げたが、何も言わない。

「誰か呼んだ方がいいのでは。彼氏とか」

 俺はスマートフォンを出そうとする。でも彼女はそれを遮るように口を開いた。

「今日は帰されちゃった」

 既に彼女は、彼氏の元を訪ねていたのだ。スキンケア用品と下着は未使用のまま袋に入っていた。彼女が俺をじっと見る。

「返品できる?」
「それは無理です」

 何と言ったって、俺はもう勤務中ではない。今から返品となると、また同僚と顔を合わせてややこしい手続きをしなくてはならないのだ。それに、せっかく買ったのだから勿体無いと思った。

「使いましょう」

 俺が言うと、彼女は目を丸くした後立ち上がった。ナンパなんて、自分がすると思わなかった。でも彼女とは随分前から顔見知りみたいなものだし、まあいいか。なりゆきに身を任せて、俺は彼氏持ちの人と体を重ねようとしている。正確には付き合っているわけではないということは、行為の後になって知った。