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 セックスしないと出られない部屋に閉じ込められた。赤井さんと私で。残念ながら私達はまだ付き合っていない、もどかしい両片思いの二人ではなかったし、何なら私には恋人がいた。赤井さんもその存在を知っていたから、「彼が外から開けてくれるだろう」と悠然と過ごしていた。

 赤井さんの読み通り、彼――降谷さんは部屋の鍵を開けた。

「しなかったよ、きちんと」

 部屋を出るなり赤井さんは両手を挙げて言う。降谷さんは訝しむように赤井さんを見ている。私が頷いてみせると、一応は彼の言葉に納得したようだった。だがそれで終わらないのが降谷さんだ。

「名前が抱くに値しない女だって言いたいんですか」

 そう言って鋭い視線を向けている。話が脇道に逸れている気がする。

「そうは言っていないだろう」
「あの赤井が一晩過ごして何もないはずがない。僕を馬鹿にしているんですか?」
「どちらかと言うと馬鹿にされてるのは私なんだけど……」

 できれば私のいない所でやってほしい。降谷さんの馬鹿真面目さは、たまに変な方向へ行くことがある。実際に赤井さんが私を抱いたら激昂するくせに。

 降谷さんはとうとう拳銃を持ち出し、赤井さんに向けた。

「抱いてください。今すぐに。そして名前が価値のある女だと証明しろ」

 降谷さんのプライドはどうなっているのだろう。女を自分の所有物のように考えている価値観の古さが降谷さんらしい。と呑気に言っている暇もなくなってきた。赤井さんは驚いた様子だ。

「降谷くん……いいのか?」
「何でまんざらでもなさそうな顔してるんですか!」

 降谷さんは何故自分から言っておいて怒るのだろう。拳銃がずいと赤井さんの顔に近付く。
「いや、礼儀としてしなかっただけで名前くんのことを抱きたいとは思っていた」

 そういったカミングアウトは、私のいない所でしてほしい。そして、独占欲の強い私の彼氏のいない所でも。

「赤井!」

 赤井さんはこの収拾をどうつけるつもりなのだろう。私の方が両手を挙げて降参したくなった。