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 契約選手でも、いや、契約選手だからこそと言うべきか、外回りの仕事はある。昼間のオフィス街は遅れたランチをとる人で混雑していた。その中でも頭ひとつ高いスーツ姿の佐久早さんについて行く。多少は遅くしてくれているのだろうが、歩くのが速い。

 するとその時、向かいからOLらしい人がやってきた。どうやら興奮した様子で佐久早さんを見ている。

「佐久早選手ですか!?」

 ファンの人だ、と思った。会社で普通に接していると忘れてしまうが、佐久早さんは有名人なのだ。佐久早さんがファンサービスをしているところは想像つかないが、時間はまだ余裕がある。ちらりと佐久早さんを見ると、彼は短く言い放った。

「今プライベートだからすみません」

 呆気にとられた私の腕を掴み、足早にその場を抜け出す。なんとか佐久早さんについて行っていた私だったが、佐久早さんが腕を離したところで我に返ったように責め立てた。

「何で嘘つくんですか!」
「プライベートって言わないとしつこく追ってくるだろ」

 確かに、佐久早さんがあまり追われたくないタイプなのはわかる。でも、それなら仕事中だと言えばいい話だ。何もビジネスの仲をプライベートだと偽る必要はない。手を繋いでプライベートだなんて、あらぬ誤解を生んでしまう。

 私はじっと口を閉じた後、結構な勇気を出して言った。

「彼女だと思われますよ」

 言ってしまった。佐久早さんに動揺する様子はない。

「別にいい」
「週刊誌載りますよ?」
「俺は気にしない」
「私が気にするんですけど!」

 一般人ならモザイクが入るだろうが、それでもいい気がするものではない。週刊誌に撮られてでもファンサービスをしたくない佐久早さんは相当異質に思えた。その佐久早さんと会社内で最も関わる位置にいるのだと思うと、私の骨も折れる。私はため息をついて、佐久早さんからやや離れた位置を歩き出した。