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三年の先輩に声をかけられた。俺は校内である程度知られているし、まあたまにあることだ。問題は、俺の恋人である苗字がどうするかということである。
ちらり、と視線を近くへやる。苗字は、それほど離れていない席でランチを食べている。話し声は聞こえていなくても、雰囲気で俺が何を話しているのかは大体わかるだろう。
一度目が合った。でもすぐに逸らされた。まるで私は関係ありませんと主張するように。俺の胸に靄がかかる。苗字は、俺が声をかけられていようとどうでもいいのだろうか。先輩達が去った後も悶々と悩む。
それでも俺は女々しく拗ねたりなどできないし、苗字を責めるのもどうかと思うのでついでのように言うので精一杯だった。
「お前独占欲とかないの」
苗字はきょとんとしていた。情けなくなってきて、すぐに目を逸らす。その日は特に学食でのことに触れることなく解散した。
「これあげる!」
それから一週間ほど経った時のことだ。苗字が俺の教室に現れたと思ったら、俺の筆箱に何かを貼った。カラフルで、やたらと明るい肌をしているそれ。
「お前何すんだよ」
俺の筆箱にはプリクラが貼られていた。映っているのは苗字と、友達の誰かだろう。俺は確かに苗字と付き合っているが、彼女のプリクラを持ち歩く趣味はない。
「プリクラ交換だよ。佐久早と私が付き合ってますってアピール」
そこで先日自分が言った言葉を思い出した。苗字なりに考えてのことだったのだ。それにしても、プリクラ交換でアピールなど中学生のようだ。
顰めっ面をする俺を見て、苗字が言葉を足す。
「あ! 私達も撮りに行く?」
俺は自分とのプリクラでないことを不満に思っていたのではない。
「他の形でアピールしろ」
そう、たとえば俺が声をかけられている時に助けるとか。わかりやすく嫉妬するとか。そういうものを求めているのに、どうして苗字はこうも子供っぽいのだろう。でもそれも可愛いと思ってしまうのだから、もうどうしようもない。
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