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若利くんと付き合って知ったこと。若利くんは意外にノリがいい。自らおどけたことを言うようなタイプではないのだが、誘えば大抵は頷いてくれる。今日もきっとそうだろう。
「愛してるゲームしようよ」
私が言うと、若利くんはつけていたテレビを消して私の隣に座った。私が黙っているから、先攻は若利くんだ。さあ、どんな風に言ってくれるのか。緊張している時点で、私の負けは決まっているのかもしれない。
「いつもありがとう」
突然、何が始まったのだろうと思った。今は愛してるゲームで、日頃の労いの場ではない。思わず若利くんを見ると、若利くんは真面目な顔をしていた。
「お前の作る飯は美味い」
これらは全て若利くんがたまにかけてくれる言葉だ。疲れている時、ご飯を作ってあげた時。言葉以上の意味はないのだと思っていた。
「いつも心配だ」
若利くんは真っ直ぐにこちらを見ている。段々と、点が線になる感覚がする。
「そういうの全部愛してるだったの……?」
そう、これらの言葉は若利くんなりの「愛してる」だったのだ。私は愛してるという言葉を、若利くんにこれほど頻繁に貰っていた。
「おい、大丈夫か」
私は顔を手で覆って俯いた。直接的に愛していると言われるより衝撃が大きいかもしれない。愛してるゲームは私の負けである。
「もういいから!」
さらに私を気遣う言葉をかける若利くんに耐えられなくなって言う。これ以上の愛してるはキャパオーバーだ。
「今のは純粋に心配したんだが」
若利くんが少し眉を下げる。若利くんが愛してるの訳を沢山持っていることなど、私は知らなかった。
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