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※牛島にモブ彼女あり

「若利くん」が佐久早にとって大きな人物であることは知っていた。だがまさか、若利くんの彼女にまで興味を持つとは思わなかった。それもかなり、失礼な形で。

「スポーツできるの? 勉強は? 何か得意なこととかある?」

 試合会場に現れた彼女を前に、佐久早は質問責めにする。佐久早を止める「若利くん」はいない。佐久早の恋人として彼女に嫉妬しているというよりかは、佐久早の無礼を止めなければいけないという使命感で私は佐久早の袖を引いた。

「私の時はそんなの言わなかったよね?」

 若利くんの彼女にスポーツや勉強の出来を気にするというのは、若利くんがバレーにおいて素晴らしい実績のある人だからだろう。それは佐久早も同じだ。佐久早の恋人である私も、同じくらい厳しい目を向けられるはずである。言っていて少し息苦しくなってきた。

「お前はいいんだよ。俺が好きだったんだから」

 佐久早の言葉に面食らう。平気な顔をして言っているが、そんなことは聞いていない。

「それ初耳なんだけど!」
「今言ったからな」
「仕方ないから付き合うみたいな顔して!」

 告白は私からだった。佐久早は自分の気持ちを言わず、「まあいいけど」とさも流されるかのように了承した。付き合ってからは佐久早もきちんと私のことを好きだと実感しているものの、告白当初に佐久早から気持ちが向けられているなど思いもしなかった。私の不安や焦りを返してほしい。

 きっと佐久早を睨むが、佐久早は素知らぬ顔で歩き出した。靄のような感情が渦巻くが、それも全部恋愛の何かに変わってしまう気がする。私は諦めて佐久早の背を追った。