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 春雨本部から帰ってきた神威さんは、いつも通りの、しかし明らかに不機嫌とわかる笑顔で私の部屋へ来た。何かあったのだということはわかりきっているが、私は形式的に尋ねる。というか、尋ねろという無言の圧力を浴びせかけられている。

「あの、何かありましたか?」
「まあ小さなことなんだけどさ。本部の雑魚と女の話になって、お前は性欲がないのかって言われた」
「はぁ……」

 春雨は宇宙海賊だ。女を犯す者もいれば、自分好みの女を求めて遊郭に繰り出す者もいる。私達が所属する第七師団だって、女好きは数多くいた。その中で神威さんは女に見向きもせず戦闘ばかりしていたので、余計目立っていたのだろう。

 男として、性欲がないのかと言われることは屈辱なのかもしれない。だがそれを私に話されたところでどうにもできない。神威さんの鬱憤を晴らすためのサンドバックの役目すら私には果たせないだろう。私にできることと言えば神威さんに怯えて馬鹿みたいに神威さんに同調することくらいなのに、神威さんは飽きずに私の部屋へやってくる。今回も一緒に春雨上層部の悪口を言っておけば済むと思っていた。

「お前、脱げよ」
「へ?」
「だから脱げって」

 神威さんは笑顔を崩さないまま言った。これは本気だ。私は唾を呑むと、立ち上がって服に手をかけた。一枚、また一枚と服が床に落ちていく。下着になっても神威さんは何も言わなかった。もっと脱げということだ。私は震える手で下着を外した。自分の裸を誰かに見せるのは初めてだった。神威さんは笑顔をやめて、私に触れる。

 神威さんの手が、私の乳房や性器など、性的な部分に触れた。これからそういうことをするものだと思っていた。しかし神威さんは私の性感帯を刺激することなく、あくまで医者が患者の体に触れるような手つきで私の肌をなぞった。

 一体これは何をされているのだろうか。性行為をするのとは別の緊張が私を襲う。神威さんも至って冷静な様子で、その表情に変化はない。私の体中を調べ尽くすと、神威さんは「もういいよ」と言った。

「お前でも俺は興奮しなかった。どうやら俺には本当に性欲がないみたいだ」
「え……」

 私が驚いたのは神威さんの導き出した結論にではない。神威さんが「お前でも」と言ったことに対してだ。それではまるで、私が女の中で一番にいるように聞こえてしまう。

「神威さん、あの」
「いつまで裸でいるんだよ。早く服着ろ」

 たまらず口を開けば、神威さんに責めるような目で睨まれる。脱げと言ったのは神威さんなのに、まるで私が変態だと言われているみたいだ。慌てて服を身につけながら、私は神威さんのことが余計わからなくなっていた。