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「二宮さんに派遣されて来ました〜」

 出水くんはそう言ってパラソルの下に腰を下ろした。天気は快晴、波の中でボーダー隊員が戯れている。私が海へ入らないのは、まあ女子によくある事情だ。

「自分は海に来ないで、おれに守らせるって二宮さんも変わってるよね」

 出水くんはそう言って膝を立てた。二宮さん本人は、家でゆっくりと過ごしているのだろう。過保護なのかそうでないのかわかりやしない。

「出水くんを信用してるんでしょ」

 私が言うと、出水くんは真顔になった。拗ねた顔をすると思っていたので意外だ。普段軽い調子の人の真顔は怖い。私達の間だけ、喧騒が静かになった気がする。

「おれってそんなに信頼できるかな。別にしようと思えば何だってできるけど」

 その対象は私なのだろうと思いながら、私は「例えば?」と言った。すぐに拒絶しなかったことを二宮さんに怒られるかもしれない。私も出水くんもこの会話を二宮さんに報告するとは思えないが。

「ちゅーとか」

 何を言っても変な気がして、私は押し黙る。雲が移動して、浜辺に影がさした。

「嘘嘘。おれかき氷買ってきます」

 ナンパ避けのために呼ばれただろうに、出水くんは行ってしまう。まあかき氷の屋台はすぐ近くなのでいいだろう。遠くのみんなを眺めながら、私は足元を弄っている。

「お待たせでーす」

 出水くんは二つかき氷を買ってきた。でもそのうちスプーンが一つしかないのを見て私は顔を顰める。先程のキス発言は本気ではないだろうな。したとしても間接キスだし、そんなことをわざわざ言うのも変だからいいのだけど。と思う時点で、出水くんの策略に乗せられているのだろうか。出水くんが私を好きだとも、二宮さんに報いてやろうとしているとも思わない。何も読めないまま、出水くんの隣にいる。不思議とそれは居心地が悪くない。