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「ごめん名前、遅れた!」
井闥山から一つ離れた駅に、元也は練習着で現れた。体育館からそのまま走ってきたかのように汗をかいている。私は「大丈夫だよ」と言って隣を歩き出した。元也が汗をかいているからか、手は繋がなかった。ただ、浴衣を着ている私に合わせて歩く速度を落としてくれた。
私達が見つけたスポットは土手の上だった。辺りを見ればカップルや家族連れもいる。
「聖臣も連れてくればよかったかな」
私が言うと、元也は否定しているとは思えない爽やかさで笑った。
「あいつは絶対嫌がるだろ」
昔から三人でいたから麻痺してしまうが、今の私達は恋人同士なのだ。聖臣は私達が付き合い出してからというもの、やたらと気を使うようになった。家族のような二人の恋愛している顔を見たくないというのもあるだろう。
花火を見ようとして背伸びした瞬間、足の上で何かが弾ける感触がする。最悪を想定しながら見下ろせば、そこには予想通り切れた鼻緒があった。
「鼻緒が……」
元也は私の呟きに反応し、「ん?」と足元を見る。頭上では、次々に花火が打ち上げられている。その赤やオレンジの光が、壊れてしまった下駄を照らす。
「大丈夫」
元也はバッグを漁り、何かを取り出した。暗くてよく見えないが、それはこの場を救うに相応しい何かなのだろう。元也が屈んで私の下駄をいじっている間、私は落ち着かない気持ちで待つ。暫く経って、元也は体を起こした。
「テーピングで止めたから多分平気。部活から直行したのが役立つとはなー」
テーピング、とは本来指や足を保護するのに使うものなのだろう。デートで使うとはなんだか不思議な気分だ。
「あー、テーピングしながら花火見たとかなんか一生思い出しそう」
私は元也の隣で、花火を見ることもできずに俯いていた。幼馴染として、異性の中で一番元也と親しい自信がある。今現在付き合ってもいる。それでも今日の出来事は元也にとって「思い出す」もので、隣に私がいる未来は思い描けないのだろう。何度も何度も花火が上がる。別れると思っているくせに、元也だけが楽しそうな顔をしている。
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