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 名前は二年間同じクラスで、女子バレー部に所属していた。だからか、話すことは多い。

「佐久早の腕があれば凄いスパイク打てそうなのにな〜」

 スパイクを打つフォームをとりながらそう話す名前に、腕だけでは意味がないと心の中で呟く。スパイクを打つには、背筋や腹筋も必要だ。しかし名前がそれを理解していないはずもないので、佐久早の中だけに留めておく。

「交換できるとしたら私のどこを貰いたい?」
「どう答えてもセクハラになりそうな質問やめろ」

 一体何故、交換することになっているのか。名前が佐久早の腕を欲しがったとしても、佐久早に名前の中で欲しい部分はない。男子が女子のパーツを貰っても、パワーダウンするだけだろう。いや、バレーに関することでなければ一つある。

「指」

 どうにでもなれ、と思って佐久早は言った。名前は不思議そうにした後、今度はブロックの体勢をとる。

「指でもパワーダウンしちゃうじゃん。頭とかじゃないんだ?」
「言っとくが、俺はお前より成績いい」

 バレーに関して指は重要なファクターだが、そうではないのだ。佐久早が名前の指を使うのはバレーではなく、下衆なことではなく、もっと別のもの。名前が佐久早を好きだと証明するものとして、左手の薬指が欲しい。とはいえ証明どころか名前は佐久早を好きでもなんでもないだろうし、高校生の内から左手の薬指だなんて重いと思われてしまうだろう。佐久早はまた心の内に止めた。いつか佐久早が溜め込んだ感情全てを、名前に解き放つ日は来るのだろうか。