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 風邪での欠席を終えて学校に復帰すると、真っ先に受け入れたのは佐久早だった。

「自己管理を怠るな。体調管理が甘い」

 朝練終わりなのだろう。少し汗をかいている。私は眉をひそめた。

「熱出した彼女に言うのがそれ?」

 とは言いつつも、私が登校したら通るだろうと考えて渡り廊下に出てきてくれたのは嬉しい。私達は並んで教室への道を歩いた。今日ばかりはマスクが佐久早とお揃いだ。佐久早のウイルスへの防御体勢を私は見習わなくてはならない。特に私は、佐久早との接触が多く日本一のエース様に風邪を移しかねないのだから。

「確かにえっちとかしてて移す可能性があったのは悪いと思ってるけど」

 私が言うと、今度は佐久早が顔をしかめる番だった。

「学校でそういうことを言うな」

 佐久早だってすけべなくせに、外では澄ました顔をしている。私はこの切り替えについていけないのだった。ベッドの上ではもっと大胆になれ、自分をさらけ出せと言う人が学校では言葉すら咎めるのだ。紳士を振る舞うなら統一したらどうなんだ、と思う。

「これからもお前は俺の次に体調管理に気を付けろ」

 つまりそれは、今後も接触をやめないということだ。佐久早に怒られてしまうから言葉にしては言わないけれど、私はきちんと理解した。佐久早にも伝わってしまったようで、軽く頭を小突かれる。

「下品な想像するな」
「してないよ?」

 今度佐久早が私を求めてきたら、「下品」だと言ってやろう。佐久早の焦った顔は少し可愛いのだ。