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「ったくあのアホコックは……」

 サニー号の甲板の上で、サンジが女性陣にだけおやつを出している。今日のメニューはクリームブリュレだ。ちゃっかり私も頂きながら、ゾロの隣で呟いた。

「胃袋を掴むのが一番だからね」

 まあ、サンジは本気で船内で恋愛をしたいわけではないのかもしれないが。この船に居候しているローがじとりとした視線を向け、サンジに絡まれていた。私は船室に戻り、先程受け取った新聞を広げる。今日の航海は珍しく穏やかだ。私もこのまま昼寝でもしたい気分だ、と外で寝ているゾロを見ながら思った。

 ドアが開く音がして、船室にローが入ってくる。特に気にかけず新聞に目を通していると、ローは能力の半円を船室に広げた。それだけにとどまらず、私の腹の中身を出した。

「何してるの!?」

 ローの能力のおかげでグロテスクなことにはなっていないが、これは一大事である。内臓を攻撃されたら私はひとたまりもない。そんなに怒らせることをしてしまったのだろうか。ルフィなどの方が確執がありそうなものだが、ローはとにかく行動が読めない。

「胃袋を掴んでる」

 ローは見た通りのことを返した。その口調の静かさで、別に怒っているわけではないのだと悟る。顔は相変わらず険しいが、ローはいつもそういう表情だ。

「私病気なの?」

 考えられる可能性はそれくらいだった。果たしてローが私に治療をしてもいいと思うくらい親密なのかはわからないが、そうでなければローが無意味に私の内臓に触っていることになる。まだ殺意を持たれていた方が納得できる。

「健康体だ。病気になってもおれが治してやる」

 ローがそう言うものだから、私は戸惑ったまま言葉を返した。

「え、ありがとう……」
「ああ」

 怒ってはいない。多分敵意はない。ではこの胃を掴むという行為に、何の意味があるのか。
 私がぽかんとローを見つめていると、ローはため息をついて私の体を元に戻した。

「何でこんなことを?」
「流石によその船のキッチンは使えねェ」

 聞いてみてもさらに疑問が深まるだけで、私は船室を出ていくローを呆然と見守った。