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 待ち合わせ場所に現れた佐久早を見て、私は素直な感情を顔に出していたと思う。咎めるような佐久早の表情がそれを表している。

「どうして花火にマスクしてくるの?」
「人混みだろうが」

 佐久早はそう言って歩き出した。

 確かに人混みだが、花火大会だ。折角彼氏と出かけるのだから、花火に乗じてキスの一つや二つあるのではないかと思っていた。でも、マスクをしていたらできない。できるだろうが、いちいちマスクを外していたらムードも台無しだ。

 私は恨めしげに佐久早を見た。今日のために着てきたのだろう浴衣は、悔しいが似合っている。本来出会って一番に浴衣を褒めるべきだったのかもしれない。

 適当な場所を見つけ、佐久早と私は並んで空を見上げた。既に花火は始まっていて、絶え間なく空に赤色が飛んでいる。

「二人きりになったらマスク外す」

 花火の音の合間に、佐久早の声が聞こえてくる。私は佐久早の方を見て尋ねた。

「なるの?」
「花火見てそのまま帰るのはもったいないだろ」

 佐久早が花火を見た後にすぐ帰らないでいようとしたこと。その際にキスや、それ以上のことをすると匂わせたこと。私は餌を前に待てを喰らった犬のような気分で花火を見た。ああ、落ち着かない。本当はもっと澄み渡った気持ちで佐久早と花火を見たかったのに。これから佐久早と触れ合うのだと思ったら、胸のときめきが止まらない。