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 名前の部屋にいる時、雨が降ってきた。名前は借りたままだった本を返すとかで一階を探し回っており、この家に俺達以外の人はいない。

 先に断っておく必要があるのだが、俺達は断じて恋人同士ではない。ただ家が近所で、幼馴染で、まるで同じ家の子供のように古森と三人セットで育てられたという関係性だ。名前の家の洗濯物を畳むのを手伝ったら、「聖臣くんは偉いね」と褒められたことすらある。だがそれはあくまで昔の話であり、名前がブラをつけるようになる前のことだ。

 幼馴染だからと、何でもないふりをして洗濯物を入れてあげた方がいいのか。恐らく名前は何も気にしないだろう。名前の母親辺りは、俺を訝しむかもしれないが。

 それとも、幼馴染のプライバシーを尊重して見ないふりをした方がいいのか。そうこう考えている間にも雨足は強まってくる。俺は拳を握りしめた。見たいか見たくないかで言えば、正直見たい。でもこんな状況で見てどうするのかという気持ちもある。

 その時、階段を駆け上がる音が聞こえてきた。

「雨降ってきた!」

 名前は自身の部屋からベランダに出た。俺は安堵していた。名前が自分で入れるのが一番いい。それと同時に少しの消沈もあった。まあ、俺が見るにはまだ早いということなのだろう。

 名前は洗濯物を抱え、部屋に戻ってきた。そしてあろうことか、俺がいるこの部屋に干し始めた。

 洗濯物のマネジメントとしては正しいのだろうが、これでは俺の葛藤が無駄になってしまう。そもそも、俺の目の前に下着を干すなんて男として意識されていないのではないか。薄いピンクの下着を見ながらそう思った。

「お前ふざけるなよ」

 俺が言っても、名前はきょとんとするのみである。

「何で怒ってるの?」

 怒っていない。喜んでいて、少し失望していて、悲しくなっているだけだ。この複雑さは名前にわかりそうにないから、言わないでおく。