▼ ▲ ▼


「ずっと前から好きでした」

 まさか、そんな言葉を影山君から貰えると思わなかった。私も言葉を発さなくてはいけないのに、言葉がうまく出てこない。幸せは時に人の舌をもつれさせる。

「私も影山君のことが好きだったの」

 私の頭の中では、ここで影山君が付き合おうという話をして終了、という図を描いていた。もしかしたら抱擁もあるかもしれない。私は浮かれる心を抑制する。しかし影山君はどちらでもなく、真剣な表情を作って私に顔を近づけた。

「いつからですか?」

 今、そこが気になる所だろうか。戸惑いつつも、私は答える。

「入学して少し経った時くらいかな?」

 すると影山君は微妙そうな顔をした。私の答えが気にそぐわなかったのだろうか。私は質問を返す。

「影山君は?」
「小学生時代からです」

 その表情は何かに張り合おうとしているかのように力が込められている。そもそも、私達は小学生次代出会っていない。私は影山君に意見するのを恐れなかった。普段ならこんなこと言えないのに、今は影山君も私を好きだからという謎の安心感に包まれていた。

「絶対嘘だよね?」
「あなたを好きなことで負けたくないだけです」

 嘘をついてまで、私が好きなのか。そう思えば感慨もあるが、できれば嘘はついてほしくない。これから付き合うことを思えば。と考えた所で、これから付き合うにはまずその話をしなくてはいけないのだと思い当たった。影山君がしてくれないのなら私からしなくてはいけない。そっと見上げた時、影山君は「じゃあこれで」と歩き出してしまった。

「え? 付き合うとかは……」
「もう付き合ってますよね?」

 影山君はきょとんとしている。何故だろうか、今私には、今後とてつもなく苦労しそうな予感がした。