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「ドイツ語を覚えろ」

 突然そう言ってきたカイザーを前に、私は目を瞬いた。私達は男女であるが、付き合っているかは曖昧な関係だ。交際の申し出をしない海外流の交際をしているのか、それともカイザーにとっての都合のいい女なのかはわかりかねる。けれどベッドの中で私を見る時、酷く愛おしい顔をすることは事実だ。

「イヤホンがあれば平気なんじゃ……」

 御影コーポレーションのおかげで、私達は会話ができている。今だって、イヤホンを外したら私達はただの男女に過ぎない。コミュニケーションは全て体を介して行われるものになるだろう。

「このイヤホンを通じて会話を集計していたらどうするんだ?」

 カイザーはそう言って耳を叩いた。

「つまりはそういうことだ」

 人に聞かれたら困るようなことを言うつもりなのだろう。もう結構言っている気がするが、あれはカイザーにとって一線を超えていないのかもしれない。

「間違っても書き言葉なんぞ覚えるなよ。お前は鳴いていればいい」

 もしかしたらカイザーは、体のつながりを重視するのではなく、気持ちのつながりを重んじようとしているのかもしれない。とはいえ愛の言葉を囁き合うのはベッドの上なのだろう。「鳴く」という表現がそれを表している。

 カイザーは結構私を好きだろうけど、「将来のため」などという言い方をしない所がカイザーらしい。カイザーが真剣に私の指のサイズを測っていたことも、私は知っているのだ。でもカイザーは遊び人だと決めつけるふりをして、私もまた軽く振る舞う。私達が結ばれる日は来るのだろうか。カイザーが跪く所は、是非見てみたいものだ。