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「海行きたい」

 そう言った私に対し、幸郎は静かに答えた。

「今の海はクラゲが出るよ」

 私はそういったことを聞きたかったのではない。幸郎が私のお願いを聞いてくれるかどうか、その尺度を測りたかったのだ。たとえ海の遠い長野から、シーズンの終えた今行くことであっても。

「まあ、行こうか」

 幸郎は私の期待に応えた。それは私を好きだからではなく、私のことも人間との付き合いもどうでもいいから受け入れているのかもしれなかった。きっと幸郎は、誰に誘われても海に行ったのかもしれない。でも、女子なら一緒に行くのはきっと私だけだ。この思考回路すら、幸郎の敷いたレールの上なのかもしれないが。


 短いオフを終えた翌日、星海は着替え終わった昼神を見て眉をしかめた。通常、星海は昼神の恋愛事情に口を出すつもりはない。けれどバレーをするのに目に余ることは別だ。

「お前ら、あからさまにキスマークつけるのやめろよ」

 星海は、昼神の相手を苗字だと決めつけた。キスマークまみれの苗字に会ったわけではなく、幸郎は明らかに苗字に対し壁を和らげている。

「これはクラゲに刺された痕だよ。二人で海に行ったんだ」

 昼神は安心させるように笑った。でも、何も健全ではない。

「大して変わらねぇじゃねぇか」

 異性と二人で、オフシーズンに海。星海は二人が付き合っているのかいないのかますますわからなくなった。昼神も苗字も相手を特別扱いしている節があるが、関係性に名前がついているわけではないようだ。そういうはっきりさせない所を、星海はあまり好きではない。

「長袖にしとけよ」

 短く言い放って、星海は部室を出た。