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 佐久早と飲みに出かけたのは、私が同棲している彼氏と破局の危機にあるからだった。いや、もう破局しているのかもしれない。私は今週末に部屋を出ることになっている。彼氏と別れてすっきりする気持ちもあるものの、どこか悔しさのようなものもある。やけ酒のように飲む私の横で、佐久早が目を細めた。

「なら俺のとこ来ればいいだろ」

 佐久早はそう言ってグラスに口をつけた。佐久早は自分の言葉に責任をとる男なので、簡単な気持ちで口にしたわけではないのだろう。私の心が喜びに震えた。

 後日、私は荷物をまとめて佐久早の家に向かった。インターホンを押すと、驚いたような顔をした佐久早が出て来る。

「は?」
「いや、佐久早のとこ来ればいいって……」

 そこで私達の間にすれ違いがあることが発覚した。私は「同棲している」彼氏と別れ、「部屋を追い出された」ことを話したつもりだったのだが、所詮酒の席だ。佐久早には「彼氏と別れる」という話に聞こえていたらしい。

「誰が物理的に来いって言った。俺が付き合ってやるって意味だよ」
「私もう部屋引き払っちゃったんだけど!?」

 佐久早の申し出は、実に有り難かったのだ。私は新しい部屋が決まっていなかった。居候させてくれるならそれ以上のことはない。口説くならまぎらわしい言い方をしないでほしいものである。

「逆にお前は彼氏でもない奴の家に居候するつもりだったのか」

 佐久早は鋭い視線を寄越した。到底口説き相手に向けるとは思えない目だ。

「佐久早ならまあいいかなって」

 私が答えると、佐久早はやや反抗的な表情を見せた。

「今すぐそんな口利けなくしてやるからな」

 そう言って部屋に戻ったので、ひとまずは居候が許可されたようだ。よかった。ときめきに心拍数を増やしているのではなく安堵しているのだと知られたら、また佐久早に怒られてしまうだろう。私は「お邪魔します」と言って佐久早の部屋に上がった。