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 地区大会の二回戦目、私は近隣校の相手に負けた。ベンチに戻ると、部活仲間が温かく私を迎え入れてくれた。スポーツドリンクを飲んで、少し歩く。一人になろうかと思っていたところに現れる影があった。私はその人物を認め、感傷にふけるのも忘れて叫んだ。

「全国優勝のエースが私の部活の地区大会観に来るとか意味わかんないんだけど! 嫌味!?」

 そこに現れたのは佐久早だった。佐久早が試合を観に来るなんて聞いていない。いや、たとえ聞いていても今の私は過剰に反応してしまうのだろう。佐久早は特に咎めることなく、「見せるためにやってるんだろ」と言った。

「そんな露出狂みたいな」

 私は汗を拭う。段々と冷静になってきた。負けた辛さのようなものが、また込み上げて来る。

「負けたから見られたくなかったのに」

 どうせなら、勝っている場面を見られたかった。佐久早は今頃呆れているかもしれない。自分は全国常連なのに、地区予選で負けるなんて。

 佐久早はそんな奴ではないとわかっていても妄想は止まらない。佐久早はそう思われていることに気付いていそうだったが、スポーツをしている時のメンタルに関して理解があるようだった。

「お疲れって言いに来た」

 その言葉に圧倒的な包容力を感じて、とにかく佐久早は私より精神的に圧倒的に上なのだと悟ってしまった。そうしたら悔しくて、私は捨て台詞のように言った。

「佐久早が負ける試合も絶対観に行ってやるから! この気まずさを味わえ!」

 佐久早が負ける試合は早々見られない、と突っ込むこともなく、佐久早は小さく笑った。その様子は子供を見守る父親のようであった。