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「どっちだと思う……?」

 私と凛は閉じ込められた部屋の中で立ち尽くしていた。天井付近には、看板のように「セックスするか相手の好きな所十個を言わないと出られない部屋」と書いてある。つまりは賭けなのだ。仮に片方を試しても開かないかもしれない。そもそも、あの表記が間違っている可能性もある。

 凛は部屋が開かないことを確かめた後、息を吐きながら前髪をかき上げた。

「順番に試してくしかねぇだろ」

 私の肩がびくりと震える。凛が少し怒っているように見えることに対してか、これからすることに対してか。いや、でも凛は私とセックスなど試さないはずだ。

「じゃあまずセックスだ」

 凛が平然と言うので、私は思わず突っ込んだ。

「それは最終手段じゃない?」
「好きな所なんざ言えるか」

 その言葉は、いかにも甘い言葉を嫌いそうな凛らしいと言える。でも、「好きな所がない」のではなく「言えない」という言い方は、凛自身に抵抗があるだけのように聞こえる。この部屋に閉じ込められているせいだろうか、私は自意識過剰と言われることを恐れずに言った。

「あるの?」

 凛は墓穴を掘ったとでも言いたげに視線を斜め下にやっている。この場ではセックスも好きな所を言うのも強制される、という圧迫感が、私を大胆にさせた。

「私は好きな所を言い合って凛が好きだったらセックスを試してみてもいいと思ってたけど、もしかして必要ない?」

 凛が視線をこちらに向けた。疎ましそうで、でも少し私のことが気になるという目。

「そういうお前も俺が好きってことかよ」

 私は自分が凛を好きだと白状していたことに気付いた。確かに、私の年頃の女子が簡単にセックスはしないだろう。でも、凛だって「お前も」と言った以上私のことが好きなのだ。なんだか急に気恥ずかしくなってきた。やはり凛の言う通り、好きな所を言うのを飛ばしてセックスをした方がいいのかもしれない。