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 戦闘を得意とする武装警察の真選組だが、通常の警察のような張り込み任務やパトロールもする。今回は大物攘夷志士・桂小太郎についての聞き込みが言い渡された。副長の土方いわく、桂と繋がりがあるのは主にかぶき町に住む面々で、中でも苗字名前という女が怪しいのだという。副長に渡された写真を見た限りでは、どこにでもいそうな町娘という印象を受けるが、攘夷志士と繋がりがあるからにはそれなりの顔があるのだろう。俺は密偵として下手に行くのではなく、真選組の山崎退として事情聴取することにした。

「あの、少しいいですか」

 警察手帳を見せながら言うと、例の女――苗字名前は、驚いた様子で振り返った。やはり普通の女性という印象を受ける。だが油断はならない。今までだって、厚い面の皮を被った女に騙されてきたではないか。

「率直に聞きます。攘夷志士・桂小太郎の居場所をご存知ですか」

 桂の名前を出すと女の顔色が変わった。本性を現すのだろうか。万一に備え、俺はすぐに刀を出せる体勢に入る。ところが女は浮かれた表情で顔に手を当てた。

「あの、真選組さんから見て、私と桂さんって親密に見えますか?」
「は?」
「だってそうでしょう? わざわざ私に聞きに来るなんて、私と桂さんに繋がりがあると思ったからでしょう」

 女の態度は解せないが、真選組として引き下がるつもりはない。俺は強気のまま、「あなたと桂が懇意にしていることはわかっています」と言った。

「キャー! こ、懇意……♡ 桂さんと私って、そう見えているのね……」

 段々真面目に事情聴取しているこちらが馬鹿らしくなってきた。引いている俺を置いて、女は続ける。

「あの……私って桂さんに脈アリだと思いますか?」
「い、いや……知らないですけど」

 俺は女に桂の居場所を聞きに来たのだ。決して恋愛相談に乗るためではない。苦言を呈さない山崎をよしとしたのか、女はさらに自分の世界へと入っていく。

「今度桂さんに告白しようと思うんですけど、どこがいいと思います?」
「さあ……ベタに河川敷とかいいんじゃないですか」
「そうですね! アドバイスありがとうございます!」

 女は興奮した様子で走り去ってしまった。残された俺は一人、呆然と立ち尽くす。結局、何の情報も得られなかった。それどころか恋愛相談に乗らされる始末だ。一体副長に何と言おうかと考えて、俺は重要な情報に思い当たった。

「河川敷……河川敷だ!」

 女が本気であるならば、女は桂を連れて河川敷へ来る。そこに張り込みしていれば、浮かれた二人を捕らえることが可能だろう。果たして女の告白に桂が浮かれた態度を取るかはわからないが――それは俺にとって至極どうでもいいことだ――桂を捕らえられれば、この無駄な時間も有意義になるというものだ。俺は女に感謝して、屯所への道を歩き出した。