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「冴くん好き」
「そりゃどうも」
「付き合って!」
「お前が俺の歳に追いついたらな」
もう怒ることもなくなってしまった。私は凛くんの一個下、中学三年だ。この歳になれば高校生と付き合っている同級生もいるものの、冴くんは一向に認めてくれなかった。私が冴くんの歳に追いつくなど一生ありえない。つまり、一生付き合うことはないと言いたいのだ。それに少し拗ねながらも、私は諦めることをしない。冴くんの試合を見れば報告をするし、くだらない雑談をする。
「冴くんの試合観たよ! 雪宮くんってモデルの人?格好いいね」
冴くんの顔色を見て、一瞬動きを止めた。決して嫉妬して欲しくて言ったわけではないのだが、そうなってしまった。そもそも、冴くんは嫉妬するのか。
「あいつに尻尾振る気か」
冴くんはまるで私と付き合っているかのような冷徹な視線を向ける。私は怯みながらも、必死に言い返した。冴くんに媚びるだけが恋ではない。
「冴くん私が好きって言っても相手にしてくれないじゃん」
だから、私は冴くんに責められる筋合いはない。そう言うつもりだったのだが、私が冴くんに口で勝てるはずがなかったのだ。
「それはお前がガキだからだ。ガキ同士で付き合うならいい。けど俺と同い年の奴を好きになるくらいなら俺を好きでいろ」
初めて聞く冴くんの本音だった。私は目を丸くし、上気した頬で冴くんを見つめる。いつも一方方向だと思っていた。でも冴くんから私にだって、少しは感情が向いているのだ。
「じゃあ付き合ってくれるの?」
「それは無理だ」
がくりと項垂れそうになる。相変わらずの冴くん節だ。冴くんはもう興味なさそうに雑誌を読んでいた。その姿に憎らしさを覚えるものの、冴くんに背こうなどとは思わない私もまた厄介なのだった。
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