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 夏休み明け、話題はバレー部が優勝したことでもちきりだった。中でも佐久早くんはエースであり、みんなに囲まれている。クラスの派手なメンバーにたかられて面倒そうではあるものの、優勝したことに関しては少し嬉しそうだ。

 不意に目が合った。お前は来ないのか、と言われているようだった。

 私は佐久早くんと仲が良い、と思う。今だって席が近くだ(佐久早くんに群がる女子に占領されているが)。でも、こういった時話題の中に飛び込んでいけるタイプではない。私は教室の隅で大人しくしているのがお似合いなのだ。

「普通に座ってればよかったのに」

 予鈴が鳴り、クラスメイトがはけたところで私は自席に戻る。佐久早くんは斜め後ろを向き私に話しかけた。やはり私達は仲が良かったのだと、胸を撫で下ろしたくなるような気持ちになる。

「私は地味だから」

 そういう派手な人達の中にはいられない。こうして卑屈な言い方をしてしまうことすらコンプレックスに感じる。佐久早くんだって、反応に困っているだろう。

 佐久早くんは少し沈黙した後、静かな声で答えた。

「少なくとも俺はお前が地味で助かった」

 顔を上げれば、佐久早くんは頭に何か差し込むような動作をしている。そういえば、目に髪の毛が入ると言っていた時ヘアピンを貸したことがあった。何の飾りもない、ただの黒いピンだ。

「でも俺はお前が派手なピンしか持ってないような奴でもお前に借りただろうな」

 何と言っていいかわからずに、私は目を丸くする。面倒な性格ごと肯定されたような嬉しさ。佐久早くんの中で、やはり私は気を許されているのだという喜び。

「俺も人間関係の狭いつまんねぇ奴だよ」

 佐久早くんは最後にそう言って前を向いた。同時に教師が入ってきて、起立の号令がかかる。無理に変わらなくてもいい。自分を否定しなくてもいいのだということが、私の心を救っていた。