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 体育館を後半から使う部活は放課後空き時間がある。教室で時間を潰そうとしていたはずが、俺はクラスメイトの苗字に付き合っていた。苗字も同じく体育館部活なのだが、今回は部活仲間と揉めたらしいのだ。女子の人間関係は俺にはわからない。だけど、苗字に元気を出してほしいと思う。

「俺はお前をよく思ってる」

 俺はかなり言葉を選んで言った。苗字は今、自信をなくしている。自分が嫌な奴だと思っているのだ。そんなことはない、俺はお前が好きだと言ってやりたい。けれど「好き」という言葉は告白で使いたいので、こうして遠回しな言葉を選んでいる。

「すごく好ましいと思う」

 これはラブではなくライク、人間として好きなのだ。そう伝えるように俺は努力する。苗字の顔色から消沈する気配が消え、俺の方を向いて不思議そうな表情を作った。

「もしかして告白してる?」
「してねぇ」

 好きなのは事実だ。でも苗字が人間関係に悩んでいる今告白などしたら、俺はとんだ厄介者である。俺がすぐさま否定すると、苗字は笑顔を見せた。

「よかった、悩みが増えちゃうところだった」

 今告白はしないことで合っているはずなのだが、こうして「悩み」と言われるとなんとも消化しがたいものがある。俺は恋路は結構、険しいのではないか。

 それでも今は俺の恋愛状況より苗字の人間関係の方に重きを置いて、俺は苗字の頭を一瞬撫でた。

「なんとかなるだろ」
「軽いなぁ」

 苗字は笑う。ずっとそうしていればいい、と思った。