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 体育祭の終わり、佐久早と教室で二人きりになってしまった。気まずいと思うのは私が佐久早を好きだからだけではない。私は一度佐久早に告白し、フラれている身なのだ。なかなか忘れることはできない。

「今日打ち上げ行く?」
「あ、うん。部活終わってからだけど」
「俺もだ」

 告白したことがなかったことのように、順調に会話は進んでいく。なら一緒に行こうと、思わず言いたくなる。でもそれはダメなのだと私は自分に言い聞かせた。佐久早が私をフった理由は彼女がいるからであり、私などと二人きりで行動するわけにはいかないのだ。

 突然途切れた会話をどう思ったのか、これまで平気そうな顔をしていた佐久早が苦い表情を作った。

「お前いつまで俺が彼女持ちだと思ってんだよ」

 とりとめのない話をしていただけに、どきりと胸が鳴る。核心に触れてしまうのかという緊張。それから、段々と言葉の意味を理解してくる。

「とっくに別れてる。好きならリサーチくらいしろよな」

 私は信じられない思いで佐久早を見た。佐久早にフラれたのはもう一年近く前のことだ。それからずっと、彼女がいるものだと思っていた。確かに佐久早は自分からアピールする方ではないけれど――佐久早を好きだと言っている私にアピールしたら変な意味になってしまうけれど――私は佐久早の変化に疎かったのだ。

「じゃあ今、フリー……?」
「そう。勝手に失恋気分でいたみたいだけどな」

 佐久早はどこか拗ねたような調子で言う。勝手に彼女持ちのままだと思われていることに、不満を持っていたのかもしれない。

「デートに誘えよ」

 とても恋愛の話をしているとは思えない上から目線で佐久早は言った。今、私に運が向いている。私は混乱した頭のまま、とりあえず週末の予定を思い浮かべた。

「まず他の人の誘いをキャンセルしてきます!」

 敬礼の姿勢をとると、佐久早は「付き合う前から浮気か?」と不満そうに言っていた。佐久早こそ、私がずっと佐久早を好きだという決めつけをしているのはどうなのだろう。実際その通りであるから何も言えない。私はそそくさと教室を後にした。