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人気の少ない昇降口に元也がいた。話しかけるべきか、かけないべきか。迷っている間に元也が「よっ」と片手を挙げる。その様子はまるで私達の間に何もなかったみたいだ。
「元カノと普通に話せるとか本当に器用だよね」
仮にも私達が別れたのは最近の出来事である。情けないと思いつつも、私は言わずにはいられなかった。
「何とも思ってないから話せるんだよ」
元也は笑っている。こうして冷たいともとれることを簡単に言ってしまえることが、元也の人付き合いの上手さの秘訣なのではないかと思う。私は真似することができないが。
「名前だって俺のそういう人間関係ドライなとこが好きって言ってたじゃん。俺結構嬉しかったんだぜ?」
もう「何とも思っていない」人に、自分のどこが好きだと言ったかを話せるのだ。やはり元也は私より何枚も上手だと認めざるを得なかった。ついでに、私の好きな所は今でも変わっていない。
「その通りだよ」
元也のドライな所が好きだった。ついつい過去形になってしまうけれど、気持ちは今でも燻っている。私の様子を察したのか、元也は宥めるように笑った。
「まーまー、その内俺なんか忘れるから。大人になったら酒でも飲もうぜ」
折角忘れるのに、また酒を飲んで思い出させるのか。どこまでも私は元也に爪痕を残せていない気がして悔しくなった。
「持ち帰る気でしょ!」
「持ち帰らせる気だろ?」
「仲良いな」
突然佐久早くんが現れたことにより、私達の言い合いは終了する。これ幸いとばかりに、私は昇降口を出て行った。私と話したことは、元也の中で佐久早くんと話すネタにもならないのだろう。そういう所が好きだったはずなのに、私は元也のドライな部分に苦しめられている。
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