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 冴の告白は、あまりに短く、そのくせに多くの意味を孕んでいて、私の頭を混乱させた。

「好きだ。好きだけど、帰ってくる頃には好きじゃなくなってると思う。だから今セックスしたい」

 冴は無表情だった。言わない方がいいことまでもを言ってしまうのがなんとも冴らしかった。冴の気持ちは所詮思春期にあてられた一時的なものであることを本人が誰よりも理解しているのだ。そんな簡単な気持ちでさえも成就させようとしているところが冴らしかった。

 私は今冴とセックスしたら、一生の思い出になるのだろうか。それとも冴に一矢報いてやるべきなのだろうか。そもそも、私が今喜んでいるかもわからない。悲しんでいるのは、多分冴の気持ちがあまり深いものではないからだ。冴に本気で好かれていないことに悲しむなら、やはり私は冴が好きなのではないか。

 私の頭は回り続け、その間も冴はじっとしている。今を逃したら、日本に帰ってくるのはいつになるかわからない。その時冴が私を好きでいる保証はない。本人が述べている通り。

「今セックスしたとして、次帰ってきた時どうなるの?」

 私は思ったままに尋ねた。冴は少しの間を置き、目線を斜め下にやった。

「別に。俺の初めての相手になるだけだ」

 冴がこの年齢で経験が多いとは思っていなかった。でも初めてを私に捧げようと言うなら、思った以上に冴は私のことを好きなのではないか。私の気持ちはセックスする方に傾いている。私だって、冴が帰ってきた時も冴を好きでいるかわからない。ただお互いに初めてを捧げ合うというのは、神秘的な心地がした。

「冴」

 私が名前を呼ぶ。冴が顔を上げる。私は少しの緊張を持って、ゆっくりと口を開いた。