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 クラスメイトの侑と帰路を同じくしたところに、突然の雨が降った。悪いことに、今は衣替えの最中であり私は透け対策を怠っていた。濡れたワイシャツ越しに、下着の線が浮いてきている。恥ずかしいという思いと、みっともないという思い。そもそも一緒に帰っている時点でおこがましいようなものだけど、今の私には侑に頼るほかない。

「出来れば上着貸してほしいなーなんて……」

 控えめな言い方になってしまったのは、侑が全く上着を貸してくれる気配がないからだ。ここは普通男が貸す場面だろうと思うのは少女漫画の読みすぎではないだろう。侑は平然と鞄で雨を凌いでいる。

「自分が薄着してきたんやろ。俺に甘えてんとちゃうぞ」

 そう言って侑は私の方を見た。それはもう、何もかもを見通してしまうような視線で。侑が私の下着に興味あることが驚きだ。

「普通貸すところやない?」

 耐えきれずに私が言うと、侑は謎の自信を持って頷いた。

「俺以外おらんやん。家まで送ったるから大丈夫や」

 先程から侑は、何故自分なら見てもいいと思っているのだろう。侑と私はクラスメイトでしかなく、私は侑に見られるのも恥ずかしい。

「何が大丈夫なんや」
「変な奴に見られんか俺が監視したる」

 そんな守るような真似をするくらいなら上着を貸してほしい。決して侑の匂いを堪能したいとかそういう意味ではなく、下着の線を通さない目的で。

「別にいいから上着貸してや!」
「何でや! 俺はええやろ!」
「よくない!」

 何故侑は自分だけいいと思うのか。何故私は侑に見られることをこうも拒否してしまうのか。なんとなくと言えばそうなのだが、その理由を深堀りすれば新たな可能性に気付いてしまいそうで私は考えないことにした。