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 高専を卒業後どうするか、という話は三年の終わり頃から訪れる。大抵は呪術師になるのだが、中には一般人として働く者もいる。夜蛾の話を受けた後、教室の椅子に座ったまま五条は口を開いた。

「五条家に来いよ」

 今硝子は席を外している。必然的にその声は名前に向けられたことになり、名前は目を瞬く。

「私ってそんな呪術師としての才能ない……?」
「ない。俺の隣で大人しくしてるのがお似合いだね」

 これは五条にとってプロポーズだった。危険な呪術師などやめて、五条に娶られればいい。今現在付き合っているわけではないのだが、なんとなく名前にはいきなりプロポーズしても大丈夫だろうという確信があった。五条と同じ家で過ごす内に、自然と五条を意識するだろう。

 ところが名前は嬉しい顔をしなかった。むしろ、奴隷扱いが決まったかのような表情である。

「朝から晩までこき使われるんだぁ!」

 名前が想像しているのは、五条家で女中として働くことだった。才能がないから雇ってやる、と言われていると思ったのだ。当然ながらそこに恋愛意志を見出していない。五条はそれに気付いていなかった。

「確かに夜は動いてもらうけど」
「夜勤メインなの!?」

 これはハードな仕事になりそうだ、と名前は尻込みする。夏油がいたら、全てを察して笑っていたことだろう。残念ながら頭の切れる常識人は今ここにいないので、二人はすれ違い続けることになる。解決策は、五条が素直に自分の気持ちを伝えることだろう。それにはどれくらいの時間がかかるかわからないが。名前の絶望した表情を見て、五条は少し拗ねた顔をした。