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「努力は必ず報われる」

 大きく書かれた文字を見て、私は目を細めた。今は進路講演会の終わりだ。主に大学に進学する生徒へ向け、それらしい言葉が掲げられている。努力と聞いて思い出すのは、私にとっていつも及川だった。及川がどれほどバレーを愛し、バレーに苦しみ、ひたむきに取り組んできたかを少しは知っているつもりだ。その努力が報われてほしいと思うから、先程の言葉は間違いではないと思う。では、私の努力が報われないのは何かの例外だろうか。

「私の努力は間違ってたのかな」

 ここで嘆いても何にもならない。先へ行く及川の足を引っ張らないよう、私の努力は報われない方がいいとわかっている。でも三年間及川を好きでい続けた私に、ぼやくくらいの権利はあるだろう。

「間違ってないよ。俺は結構お前を好きにならないようにしてたから」

 及川は配られたプリントを見ながら言った。そこにあるのは進学の情報で、及川が気にかけることは何一つないというのに、及川はじっと目を上げなかった。

「じゃあやっぱり報われないんだ」

 平気そうな声が出た。でも多分、私の及川に対する気持ちはこんな軽いものではないことを及川は知っている。

「努力が叶う瞬間なんていつかわからないだろ。十年後、十五年後かもしれない」

 二十年後、三十年後と言ってもいいのに、何故わりと最近なのだろう。少し考えて、それが大抵のスポーツ選手の現役引退年齢であると気付いた。及川が本当に引退した後私を相手にする気があって言ったのかはわからないが、それでも気の遠くなるような年月だ。

「俺はお前に努力を続けろとは言わない。でも、俺は努力する」

 及川の言葉を聞きながら、ああ私は及川のそういうところを好きになったのだったと思い出した。努力する及川が好きだ。及川は努力を人に強いない。私が勝手に努力を始めただけ。だから報われないのも全部自己責任なのだ。こんな厳しい世界に、及川は身を置いているのだ。

 なんだか気が遠くなって、私は思わず笑った。及川は何が面白いのか、相変わらずプリントを見続けていた。