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 恋人と一緒にいて甘えたいと思うことの方が多いのは私が女だからだろうか。仕方ないという様子で甘やかしてもらうのも好きなのだが、聖臣を見ていると甘やかしたくもなる。私はソファに座り、ドライヤーを持って足を開いた。

「髪の毛乾かしてあげる」

 聖臣は私を一瞥した後、素直に寄ってきた。気分によっては「いい」と断られてしまうこともある。今日は甘えたい気質なのだろう。

 ドライヤーの電源を入れ、聖臣の髪を乾かす。このくらいの長さにしたことはないから新鮮だ。私はそっとドライヤーを当てるのみにした。人の髪となると、どうも慎重になってしまう。それに男性は自然乾燥派も多いだろう。

「そこちゃんと持ち上げろ。あと角度も変えろ」

 空気を切り裂くように、聖臣の鋭い声が響く。今一応甘い空気だったような気がするのだけど、聖臣はドライヤーひとつにも真剣だということなのだろう。

「天然パーマをなめるなよ」

 聖臣は私の方を振り向き、きっと睨んだ。ストレートパーマをかけないから気にしていないのではないかと思っていたけれど、苦労はしているようだ。

「本気で乾かせ。できないなら俺が掴む」

 聖臣は手を伸ばし、私の手を掴んだ。そのまま私の手越しにドライヤーを動かし、髪を乾かしていく。私はただ操られているのみだ。

「なら聖臣が自分でやった方が早いんじゃ……」

 私が思わず言うと、「お前にやらせてあげてるんだ」と聖臣が返した。その上から目線が、なんとも聖臣らしい。