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 侑の表情は面白いほどに変わらなかった。褒めるでもなく、驚くでもなく、憮然と言ってのける。

「処女は黒髪やないと」
「処女やないわ!」

 今日は金髪に染めてから初めて侑と会う日だ。二人きりではなく、上京組の複数人であるのだけど、侑は私の隣に座っていた。侑は私の黒髪姿を見慣れているだろうから何か言うだろうと思っていたが、まさか処女などと言われるとは思わなかった。大体、高校時代に私の処女を持って行ったのは侑だ。

「大体何で侑が私の髪型決めんねん」
「陰キャがイキってんのうざいやんか」

 侑はそう言ってグラスを傾けた。確かに、私は派手な方ではない。だが一時的にでもその地味な女を相手にしたのは侑だろうと言いたくなる。自分のことは棚に上げるのだろうか。

「別に真似しただけやん」

 私は拗ねたような声を出して、枝豆を一つつまんだ。この言葉から私が侑をまだ好きであることがバレてもいい。いや、私の気持ちは「好き」というほど大層なものではなく、侑とちょっと楽しめればいいなという程度のものかもしれないが。

 侑は私の真意を理解してか知らずか、にっと笑って自らの頭を指差した。

「お揃いやな」
「おお」

 侑が乗ってくるとは思わず、調子を狂わされる。今晩もしかしたら、そういう展開もあるかもしれない。その気になって家を出てきたくせに、一体何故動揺しているのだろう。今晩侑に抱かれるとしたら、私は二回目の処女になった気分だ。