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「今度国見達とバレーすることになりました」
「あ、うん」

 軽やかな音楽が流れる中、私はそう言うほかなかった。

 懐かしいアドレスから連絡が来たのは数週間前のことだ。何しろ当時の私達はまだガラケーを使っていて、メッセージアプリの友達ではなかった。つまり、私達は中学当時から一回も連絡をとっていない。相手はCMも務める人気バレーボーラーだ。「会って話せませんか」という文言に、何も考えるなという方が無理だろう。

「もしかして今日呼び出したのってそれだけ?」

 できるだけ嫌味にならないよう、私は尋ねる。影山君は真顔を崩さないまま、バゲットを持った手をテーブルに置いた。

「昔相談に乗ってもらったから報告に……」

 思い出されるのは、中学時代のことだ。部活終わりに教室に寄ったら、影山君が机に突っ伏して座っていた。普段背筋を伸ばしている彼のそんな姿が珍しく、私は思わず声をかけた。影山君は、ぽつりと話してくれた。部活仲間と上手く行っていないこと。実力が抜きん出ているゆえの悩みなど私に共感できるはずもなく、私はただ話を聞いただけだった。それを影山君は覚えていたのだ。

「そんな大したことしてないよ」

 曖昧に濁すように笑みを浮かべる私に、影山君はやはり背筋を正して言った。

「いえ、苗字さんは俺の大事な友達です」

 影山君の中で私はずっと友達だったのだ。影山君の友達感覚がおかしいと言えばそうなのだが、当時の影山君は私ですら大事に思うほど困窮していたのだろう。彼の役に立てたことを、少し誇らしく思う。私が笑みを浮かべると、影山君も相好を崩した。