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「あ、おかえり」

 自宅のドアを開けた瞬間に目に入る大男を見て、私は目を細めた。南雲が気まぐれに現れるのは今に始まったことではない。それでも勝手に家に入るのはどうなのだろうかと、常識が通じない相手だとわかっていても思わずにはいられない。

「僕今追われてるんだ」

 南雲は勝手にソファに座った。家主である私が疲れて帰宅しているのを差し置いて、ソファを一人で占領する気のようだ。狭いソファに南雲とくっつくようにして座ろうとは思わない。

「とある機密情報を手に入れてね。相手は知った人間を生かしておかないみたい」

 南雲にとってそれが日常なのだろうから、同情はしない。そもそも身の危険があるなら私の家より安全な場所はいくらでもあるだろうに、何故私の家に来るのだろうか。私を危険に巻き込むわけにはいかない、というような男気は彼にないようだ。

「別に来るのはいいけど早く出て行ってよね」

 私は棚の上にイヤリングを置く。南雲は笑って手を上げた。

「うん。その組織のトップはここの区長だよ」

 イヤリングを外す手が止まる。はたと南雲を見れば、南雲は能天気な笑みを浮かべていた。

「これで運命共同体だね〜」

 やはり南雲が知った機密情報とは、その組織のトップの正体だったのだ。それを知らされた今、私も追われることになる。とてもではないが、私は南雲のような戦闘能力を持っていない。

「どうしてくれんの? 私まで殺されるじゃん」
「大丈夫、僕が守るから」

 面倒臭いことになったと思った。南雲は私と一緒にいる口実を作るために機密情報を手に入れたのだ。普通に構ってほしいと言えばいいものを、裏社会の人間は妙な思考回路をしている。それも私が南雲をあまり構っていないせいなら、今度こそ私は南雲に向き合わなければならない。私は息をひとつ吐いて、南雲のそばに寄った。